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仙台地方裁判所 昭和28年(ワ)663号 判決 1960年1月29日

原告 加藤惣松

右訴訟代理人弁護士 伊藤俊郎

被告 株式会社東華ホテル

右代表者 中村明

右訴訟代理人弁護士 三島保

八島喜久夫

右訴訟復代理人弁護士 太田幸作

主文

原告が別紙目録記載(一)ないし(三)の土地(但し、右(三)の土地に関する限り、昭和三十二年五月六日以前はその従前地たる仙台市元寺小路六十八番宅地二百七十一坪三合及び同所六十九番宅三百六十四坪七合四勺の一部)の賃料として、昭和二十八年六月一日より昭和二十九年十一月三十日まで一ヶ月金六万円、同年十二月一日より昭和三十一年四月九日まで一ヶ月金七万四千百円、同年同月十日より昭和三十二年三月三十一日まで一ヶ月金十万円、同年四月一日より昭和三十三年七月十一日まで一ヶ月金十二万円の各割合による金員請求権を、右目録記載(一)及び(二)の土地の賃料として、同年同月十三日より同年九月一日まで一ヶ月金十万二千円、同年同月二日以降一ヶ月金十一万二千二百円の各割合による金員請求権を有することを確認する。

被告は、原告に対し金四百五十九万九千六百九十円及びこれに対する昭和三十四年十月一日より完済にいたるまで年六分の割合による金員並びに同年十月一日より完済にいたるまで一ヶ月金十一万二千円の割合による金員を支払うこと。

原告その余の請求は、これを棄却する。訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その四を被告の負担とする。

この判決は、原告において金百五十三万円の担保をたてるときは、右第二項に限り、仮りにこれを執行することができる。但し、被告において金四百五十九万円の担保を供するときは、右仮執行を免かれることができる。

事実

≪省略≫

理由

本件土地が原告の所有にかかる冒頭記載のごとき土地に対する仮換地として指定されたものであつて、被告が昭和二十五年七月七日以来これを原告より賃借し、その上に建物を所有して旅館業を営んでいること、その賃料は、被告が賃借した当初は一ヶ月金一万円であつたが昭和二十七年四月十八日仙台簡易裁判所の調停で、昭和二十六年九月一日より同年十二月三十一日まで一ヶ月金二万円、昭和二十七年一月一日以降一ヶ月金三万円に改定されたこと、その後原告は被告に対し借地法第十二条の規定に基き、昭和二十八年五月三十日右賃料を同年六月一日以降一ヶ月金六万円、昭和二十九年十一月二十七日これを同年十二月十日以降一ヶ月金八万円、昭和三十一年四月九日これを同月十日以降一ヶ月金十万円、昭和三十二年三月三十日これを同年四月一日以降一ヶ月金十五万円、昭和三十三年八月三十一日これを同年九月一日以降一ヶ月金十八万円にそれぞれ増額する旨を通知し、その間昭和三十二年七月十三日本件土地のうち別紙目録記載の土地についての賃貸借契約が解除されたこと、はいずれも当事者間に争いがない。

しかして、これまた当事者間に争いがない、全国市街地価格平均指数の推移及び本件土地に対する公租公課増徴の事実に照らし、前記月額金三万円の賃料は、その後における経済事情の変動により右賃料増額請求の意思表示がなされた各時期においては不相当となるにいたつたことを認めるのに十分である。

そこでまず、右各時期における本件土地の相当賃料の額について判断する。

借地法第十二条は、借地契約当事者間の利害を調節し、不動産の利用関係を合理的に規制することを目的として設けられた規定であることはいうまでもないが、右法条によつて是正さるべき賃料の不相当性は、賃料決定以後における経済事情の変動により招来されたものに限られ、決定当初より存在するものは含まれないこと、同法条の文言に照らし疑いを容れないところである。元来土地賃料は、賃貸人が賃借人に土地を使用せしめる対価として支払われるものであるから、賃貸土地に対する投下資本に一般利子率を乗じた利潤相当額であるのを本姿とするとはいえ、借地法第十二条の規定の法意が前叙のごときものである以上、当事者の増減額の請求により改修さるべき賃料の額は、地代家賃統制令の適用がない土地を新たに賃貸する場合におけるいわゆる適正賃料のごとく、前記方式によつて算出すべきではなくして、既定賃料に当該土地価格の上昇率を乗ずる方法によつて算出すべく、かくして得た金額がたとえ適正賃料に一致しないことがあるとしても、それは、既定賃料決定の際当事者の容認した特殊条件に基因するものであるから、賃貸人の当該土地に対する固定資産税や管理費等の必要経費を下回る程低額であるとか、賃借人の困窮を激成せしめる程高額であるとか特段の事情が認められない限り、右法条のもとにおいては、これを度外視すべきである、と解するのを相当とする。

いま本件についてこれをみるのに、鑑定人佐藤馨鑑定(第一、二回)の結果によれば、昭和二十七年度(但し、歴年計算による。以下同じ。)上半期を基準とする本件土地価格の上昇率は、昭和二十八年度上半期において二倍、昭和二十九年度下半期において二・四六八倍(四捨五入)、昭和三十一年度上半期において三・五一四倍、昭和三十二年度において四倍であることを認めることができ、右認定と異なる鑑定人藤田貞蔵鑑定(第一、二回)の結果は、前段認定にかかる全国市街地価格平均指数の推移及び本件土地に対する固定資産税増徴の事実等から推してにわかに措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。よつて、前記賃料増額請求の意思表示がなされた各時期における本件土地の月額相当賃料は、昭和二十八年六月において金六万円、昭和二十九年十二月において金七万四千百円、昭和三十一年四月において金十万五千三百円、昭和三十二年四月において金十二万円であること、計数上明らかである。さらに、昭和三十三年九月における本訴土地の月額相当賃料についていえば、右鑑定人佐藤馨(第二回)は、同年度の本件土地価格の上昇率は四倍であつて、前年度に比較して価格の変動がみられないように鑑定しているけれども、同鑑定の結果は、後記認定事実に照らしてにわかに措信し難く、却つて、当事者間に争いのない、昭和三十二年度における本件土地の固定資産評価額が金千七百六十七万円、同年三月現在における全国市街地価格平均指数が四二・五七一であるのに対し、昭和三十三年度における本件土地の固定資産評価額が金千八百九十八万三千円、同年九月現在における全国市街地価格平均指数が五六・六二二で、いずれも約一・一倍の上昇率を示していることからみて、本件土地の価格は基準年度に比較して四・一倍、従つて、その相当賃料は金十三万二千円である、と認めるべきである。ところで、昭和三十二年七月十三日にいたり本件土地のうち別紙目録記載(三)の土地についての賃貸借契約が解除されたことは当事者間に争いのない事実であるので、残余の土地についての同日より昭和三十三年八月三十一日までの月額相当賃料は、右金十二万円から同金額に鑑定人佐藤馨鑑定の結果(第一、二回)により認め得べき、右(三)の土地の価格が本件土地の総価格に対して占める割合である〇・一五を乗じて得た金一万八千円を控除した金十万二千円、同年九月一日以降における残余の土地についての月額相当賃料は、右金十三万二千円から同金額に右〇・一五を乗じて得た金一万九千八百円を控除した金十一万二千二百円である、と認めるのを妥当とする。右鑑定人佐藤馨の賃料鑑定(第一、二回)の結果は、本件土地の適正賃料を算定したものであるから、これをもつて直ちに本件土地の相当賃料とはなし難く、他に右認定の妨げとなる証拠はない。

しかして、右相当賃料の額は、鑑定人佐藤馨鑑定(第一、二回)の結果により認め得べき本件土地の各年度における売買価格より推算して、適正賃料を可成り下廻ることは容易に肯首し得るところではあるが、その格差は専ら前記既定賃料決定の際の特殊条件に基因するものであり、他に右金額を本件土地の賃料として是認し得べからざる特段の事情を立証する何等の証拠もないので、これをもつて増額請求によつて改修さるべき賃料の範囲を確定する基準となすのを相当とする。

そこで、原告の前記賃料増額請求の意思表示によつて改修された本件土地(但し、昭和三十二年七月十三日以降は右(三)の土地を除く残余の土地)の月額を算定するのに、昭和二八年六月一日からは右相当賃料たる金六万円、昭和二十九年十二月一日からは同じく右相当賃料たる金七万四千百円、昭和三十一年四月十日からは右相当賃料のうち原告の請求にかかる金十万円、昭和三十二年四月一日からは右相当賃料たる金十二万円、昭和三十三年九月一日からは同じく相当賃料たる金十一万二千二百円、となる。

しかるに、被告が右各賃料増額の効力を争い、依然として従前どおり一ヶ月金三万円の割合による賃料を支払つているにすぎないことは、被告の自認するところであり、また、(イ)昭和二十八年六月一日より昭和二十九年十一月三十日まで十八ヶ月間の一ヶ月金六万円の割合による賃料は金百八万円、(ロ)同年十二月一日より昭和三十一年四月九日まで十六ヶ月と九日間の一ヶ月金七万四千百円の割合による賃料は金百二十万七千八百三十円、(ハ)同年四月十日より昭和三十二年三月三十一日まで十一ヶ月と二十日間の一ヶ月金十万円の割合による賃料は金百十六万六千六百六十円、(ニ)同年四月一日より昭和三十三年六月三十日まで十五ヶ月間の一ヶ月金十二万円の割合による賃料は金百八十万円、同年七月十三日より同年八月三十一日まで一ヶ月と十九日間の一ヶ月金十万二千円の割合による賃料は金十六万六千六百円、(ホ)同年九月一日より昭和三十四年九月三十日まで十三ヶ月間の一ヶ月金十一万二千二百円の割合による賃料は金百四十五万八千六百円であり、そのうち、原告が昭和二十八年六月一日より昭和三十四年九月三十日まで七十六ヶ月間被告から一ヶ月金三万円の割合で受領している賃料は金二百二十八万円であること、計数上明らかであるので、被告のその間における未払賃料の総額は、右(イ)ないし(ホ)の合計金六百八十七万九千六百九十円から右金二百二十八万円を控除した金四百五十九万九千六百九十円となる。

よつて、原告の本訴請求は、原告が本件土地の賃料として、昭和二十八年六月一日より昭和二十九年十一月三十日まで一ヶ月金六万円、同年十二月一日より昭和三十一年四月九日まで一ヶ月金七万四千百円、同月十日より昭和三十二年三月三十一日まで一ヶ月金十万円、同年四月一日より昭和三十三年七月十一日まで一ヶ月金十二万円の各割合による金員請求権を、本件土地のうち別紙目録記載(三)の土地を除くその余の土地の賃料として、同月十三日より同年九月一日まで一ヶ月金十万二千円、同月二日以降一ヶ月金十一万二千二百円の各割合による金員請求権を有することの確認と、被告に対し右金四百五十九万九千六百九十円及びこれに対する最終内入弁済期日の翌日たる昭和三十四年十月一日より完済にいたるまで商法所定年六分の割合による遅延損害金並びに同年十月一日より完済にいたるまで一ヶ月金十一万二千二百円の割合による賃料の支払いを求める限度において正当であるのでこれを認容し、右限度を超過する部分は失当であるのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言並びに仮執行免脱の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆)

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